良寛さんの涙の教化
2017/02/28
「龍樹菩薩などの機の深信は私達と同じなのでしょうか。」こんな質問を先生にしたことがあります。その時、先生は「菩薩の方は、もう地獄に落ちないのだぞ」と言われてから良寛さんの話をして下さいました。
良寛さんは“愛語”という言葉をよく好んで使われた方です。良寛さんは、大乗の四摂事(布施、愛語、利行、同事)の実践に心を砕かれたのだと思います。
四摂事とは、大乗仏教の六波羅密とともに説明されるもので、布施・愛語は分かりやすいのですが、利行と同事が分かりにくい言葉です。次に説明をします。
- 利行とは、相手に身・口・意(行い・言語・意念)の善行をもって利益し親愛を感じせしめ、仏道に引き入れること。
- 同事とは、相手の機根(法を聞き、受け入れられる機会や根性)に随い、その所行によって同化し、仏道に引き入れること。よく同心といいますが相手の苦しみを自分の苦しみと感じて手立てする振る舞いです。
さて、良寛さんのお兄さんは商売をやっていて、その子供は最近だらしない生活ぶりで放蕩息子となっておりました。それで、兄嫁さんが良寛さんに息子を叱って欲しいと頼み来たことがあるのです。
良寛さんはそれを断れなくて、兄嫁さんのお願いされた日にお兄さんの家に出かけて行きました。そして、その息子さんとずっと遊んで過ごしておったのです。兄嫁さんは、いつになったら話しをしてくれるかと隣でずっと聞いていました。
時間がたって、とうとう最後まで良寛さんは息子さんに説教するでもなく遊んだあと、「さあ、帰るとするか」と帰られようとします。息子さんは、良寛さんを見送りに出てまいりました。息子さんに、草履の紐を結んでくれと良寛さんが頼むと、息子さんは喜んで紐を結んでおりました。ところが、その草履の紐を結んでいると手元に何やら熱い涙らしいものが落ちてきます。息子さんが見上げると、良寛さんが泣いているのでした。
息子さんはその涙を見て電気に触れるように改心してそれから放蕩ぶりを返上して一生懸命仕事をするようになったということです。
良寛さんは何の説法もせずに、息子を改心させたということで有名になったということです。
菩薩行とは、語る言葉も不要な、私達に同心して涙一つで説法が出来るのでして、そんな方を凡夫と同じように思ってはいけないのだと思います。
この話しはとても感激しながら聞いたもので、よく覚えております。